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写真文庫その壱

以前、太秦にある「蛇塚古墳」の環境変化を書いたことがある。茶畑の中の小高くなった場所にある石組みを見上げるように撮った写真が少し古い本に載っていたので、その光景を目当てに現地に行ったら周りは住宅が建て込んでいて、しかも金網で囲まれていて鼻白む覚えがあったのだ。その古い写真を載せた本が手元に見つからないうちに、それは「岩波写真文庫」ではないかという意見があり、ヤフオクで落札してみた。洛中と洛外の二編がある。古本なので洛中が600円、洛外は200円だった。

二編とも体裁はB5版の紙16枚を束ねて二つ折りにして綴じたもので、背表紙はなく最終形はB6版64頁の小冊子。洛中編は1954年2月5日第1刷発行で手元のものは第4刷1955年6月30日、定価100円である。いうまでもなく白黒印刷であり、かえって新鮮さがある。

撮影は岩波映画製作所、監修は梅竿忠夫氏である。彼は岩波新書「知的生産の技術」や「京大カード」で知られるが、彼の著作を読むと1920年上京区の生まれなので京都案内に相応しい人選であったのだろう。前書きには「案内役には、生粋の京都人が当たりましょう」とある。監修とあるが、どうやら文章も彼が書いたようである。

表紙と背表紙は一枚の紙で続いており、東寺の塔、三十三間堂の千手観音、銀閣寺観音殿、清水の舞台、二条城の大広間などの写真が並べてあるが、当然のことながら小さな写真では当時と令和二年の姿に違いは認められない。ただ「五條大橋」は北斎の絵に出てきそうな木製の橋桁の写真が載っている。我々の馴染みのあるコンクリートの橋は1959年にできたので、ひと昔前の橋の写真である。なお、橋の上に自動車の姿がないのはたまたまなのか。自動車の重量に耐えられる橋だったのかご存知の方がおられたらご教示願いたい。

なお、五条の通りは戦時の建物疎開で、御池通や堀川通と同じく幅広の道路になっていたし、この本にも拡幅された五条通の写真があるが、信じられないことに自動車は全く走っていない。ついでだが五条通りが国道に指定されたのは1952年である。昭和三十年代になっても東海道(国道1号線)の神奈川県戸塚あたりは舗装されていなかったし、雨の日は水たまりがあちこちにできるので皆が長靴を履いて通勤・通学していた時代であった。

そして、金閣寺である。「なかなかに美しかった」という文章があり、はてなと思ったら1950年に放火され、再建は1955年だからこの冊子を取材している時期は再建途中であったのである。以前にも書いたが、焼失前の金閣寺の金箔の厚みは、1955年の再建後のそれより薄い。そして1986年の「昭和の大修復」ではさらに金箔は厚くなった。読者各位のご覧になっている金閣は使う金の量が違うのである。さらに金閣寺は行くたびに庭園や通路が整備されていて堂宇の数も増えている。つまり、あなたが見た金閣寺はこの本が書かれた1954年の金閣寺とは違うのである。

「京都案内」と銘打った冊子は、寺社仏閣名所旧跡ばかりを取り上げていない。「山紫水明」というページがある。京都で本気の買い物や食事は高くつくが、景色は無料だというのである。そして京都の小中学校の校歌に「山紫水明」の四文字が入っていないものはないだろうというのである。「出町の橋の上に立って、北を眺めてごらんなさい。」という文章とともに、鴨川の流れの写真がある。そして友禅染めを鴨川で晒している風景の写真もある。当時は寺社を除いて全てが木造住宅であるので、明治や江戸の時代とほぼ同じの、山と森の風景が望めるのである。

北山ユースの古くからの常連だった皆さんは、大文字を鴨川の河原で眺めた思い出があるだろう。そして年を経るに従い、妙法や船形が高い建物でだんだんと見えなくなってきたことを実感しているに違いない。そうなのだ。1954年発行の冊子に掲載された写真には当然ながら寺社が多いが、その背景の森林の姿、遠景の街並みは古都の風情であり、決して令和の観光都市とは同じではないのである。

北山ユースが開業したのは1975年の3月で、振り返れば半世紀以上の歳月が経過している。少なくとも1970年代に北山に通っていた仲間の眼に映っていた洛中・洛外の街並みや木々の緑は今の景色とかなり違っているのである。昔の記憶を穿り返すのは老人の性ではあるが、呼べど戻らぬ往時の記憶を振り返り、諸行無常を深く感じることができるのは老人の特権でもあるのだ。

冊子『京都案内」

タナキン

北山ユース開所366日目から宿泊して、皆さまに育てられた大昔のホステラーです。 京都の寺社仏閣の全数踏破を終え、次に季節毎の拝観を実施中。

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